現代版『時そば』?――悪質個人タクシー運転手の釣り銭詐欺にご用心

 以下は知人のアナウンサーから聞いた話である。彼は神宮前から乗ったタクシーでどうやら悪質な釣り銭詐欺に遭ったらしく、1万円を奪われてしまった。この運転手はいまだに都内を流しているはずなので、皆さんもくれぐれもご注意ください。
 某日夜、彼――Aさんは後輩の女子アナウンサーと酒を飲み、終電を逃してしまったので午後12時(午前0時)過ぎに神宮前でタクシーを拾い、女子アナウンサーとともに乗り込んだ。Aさん曰く、「終電を逃したのは意図したものではないです。後輩の女の子? もちろんちゃんと送りましたよ。家に上がり込んでもいません」

 女子アナウンサーが下りた後、運転手は気さくにAさんに話しかけてきた。「●●●(テレビ局の名前)のアナウンサーの方ですよね。よく見ていますよ。テレビと言えば、みの(もんた)さん、一回の飲み会で何十万も使うってホントですか」。年齢はおよそ40代半ばで、怪しい雰囲気はまったくなかったという。

 やがてタクシーはAさんの自宅前についた。料金は7450円。Aさんは1万円をコンソールボックスの上に置いた。するとタクシーの運転手が言う。「お客さん、細かいのありませんか」。Aさんは「ちょっと待ってください」と言い、財布の中身を調べてみた。450円分の小銭はなかった。
「すみません。細かいの無いので、それでおつりください」
「お客さん、7450円ですよ」
「え?」
 Aさんが見ると、コンソールボックスの上にあるのは1000円札だった。
 おかしいな、さっき1万円を出したはずだけれどな、と思いつつもAさんは言われるままに1万円札を出し、釣り銭と領収書を受け取った。

 Aさんはどうしても釈然としなかった。遅くまで飲んで酔っているとはいえ、1万円と1000円を間違えるだろうか。やはり1万円を出したのではないか。それに7010円とか7020円ならともかく、7450円という金額で「細かいのありますか」と聞くだろうか。450円は端数とは言えないのではないか。

 Aさんは領収書を出してみた。個人タクシーだが、ちょうど電話番号の頭のところで切れていて数字がわからず、また日付の下に印字されている車番が000000になっている。そう言えば白い車体の屋根についているぼんぼりは、これまで見たことがない球体の形をしていた。もしかしたら、1万円をだまし取られてしまったのではないか。

 Aさんは東京タクシーセンターに電話を入れ、個人タクシーの名前を告げて問い合わせてみた。するとそのタクシーについて、ほかにもクレームが寄せられているという。Aさんは続いて東京陸運局に電話を入れて事情を伝えた。被害届が出されているかなど陸運局で調べてくれることになったという。Aさんはいまその連絡を待っているところである。「まったく悪びれるところがなくて、ごく自然なんですよね。でも間違いなく、意図的だったと思います」

 もしAさんの言うとおり意図的だったとしたら、まさに現代版時そばという感じである。