夏は音をテーマにした小旅行を――せせらぎや雨音はネット時代を制するコンテンツになる(と思う)

 いきなりいささか大げさなことを言うと、20世紀が映像の世紀だったとすれば、21世紀は音の世紀になるのではないだろうか。すなわち20世紀の100年間を通して映像が人々にとって欠くべからざるコンテンツとなったように、これからは音がネット時代を制する特権的なコンテンツになるのではないか。

 音――音楽ではなくて音。もっと具体的に言えば、例えば屋久島の縄文杉がたてるかすかな葉ずれや、聖なる川ガンジスのせせらぎ、荘厳な大聖堂を叩く雨音など、僕たちの心をどこか別の場所に連れていってくれるような、固有の、かすかな音である。


 何でこんなことを言いだしたかといえば、やはり年ですね。若いころは映像や音楽にばかり心を奪われていたけれど、40代も残り少なくなったいま、音の持つ力は本当に偉大だとしみじみ思う。一人部屋にいて雨音を聞いているとなんだかしきりに子供のころのことを思い出してしまうし、波の音に耳をすませているだけで優しい気持ちになってくる(そう言えば水の音は母親の胎内にいたときのことを思い出させるので安らぎをもたらす、と聞いたことがあるが、本当なのだろうか。因果関係がちょっとわかりやすすぎる気がするんですよね)。

 というわけで僕はこの夏、音をテーマにした小旅行を実行してみようかな、などとひそかに思っています。川のせせらぎや雨音、風が木の葉を揺らす音、人を森の奥へと誘うような鳥の声――そんな音を求めて自然の中へと出かけてみたいんですよね(皆さんのご予定はいかがですか)。

 候補地は以下の3つ。本当はもっと遠出をしたいのだけれど、執筆すべき書籍の企画をいくつか抱えているので2泊3日がせいぜいなのだ。



 その1、熊野古道那智大社  かつて訪ねた聖なる滝、那智の滝のたたずまいはいまでも思い出す。静ひつな熊野古道の雰囲気を味わった後で、那智の滝の音に耳をすましてみたい。


 その2、戸隠高原  いわずと知れた天の岩戸伝説が伝えられる長野県の景勝地で、戸隠山の中腹にある戸隠神社(奥社)は古の聖地にふさわしい、ひそやかな音に満ちている気がする。木立の根元に腰を下ろし、しばしぼんやりしたい。


 その3、尾道  朝、船着き場のすぐ近くにある旅館の布団のなかで波の音やフェリーが発着する音を聞いていると、いつまでもこうしていたい気持ちに駆られてしまう。林芙美子の小説や大林宣彦監督の映画で有名な観光地だが、観光ずれしておらず、優しい気持ちになれる街だと思う。