午前5時の花見 桜の季節に合う読書は

 午前5時すぎ、物音をあまり立てないようにして自宅を出る。あたりはまだ薄暗く、冷たい雨が降りしきっている。毎週月曜日は「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月〜金6:30〜8:30)へのニュース解説のコメンテーターとしての出演があり、いつも寝静まった街を横目で眺めながら赤坂のTBSへとハイヤーで向かうのだ。

 でも今日はただ仕事場に行くだけではない。もう一つ目的というか楽しみがある。それは何かというと、花見です。
 午前5時半、ハイヤー首都高速5号池袋線から都心環状線に入った。数分後、目当ての光景が現れる。場所は代官町のあたりで、右手には千鳥ヶ淵の両岸に桜並木が続き、左手の石垣の上にも桜の古木が花を咲かせている。満開の染井吉野はものぐるおしいほど美しく、とりわけ今朝は氷雨に打たれ妖気さえ漂う厳粛な雰囲気を醸している。

 僕はほっとため息をついた。一昨日の土曜日は原稿執筆やら何やらでバタバタしてしまい川口駅西口にある桜の名所、リリアパークを通り過ぎただけだった。昨日も雨に降られて桜をのんびり眺められなかった。でも、これで今年も十分、桜を堪能した気がする。
  
 川口西口のリリアパークにて。飲みたかったけれど仕事があって通り過ぎただけでした。


 皆さんも朝が苦手でなければ、交通量の少ない午前5時ごろ、千鳥ヶ淵のあたりを走ってみるのもいいかもしれません。桜を見られるのは一瞬ですが、だからこそ、その美しさが印象に残ります(もちろん運転にはじゅうぶんご注意くださいね)。

 ところで妖気漂う、という言葉で今年も思い出したのだけれど、毎年、桜が散りかけるころになると読みたくなる作品がある。
 皆川博子さんの短編小説「丘の上の宴会」。桜がとても印象的に描かれた短編の幻想文学として、見事な作品である。いくつかのアンソロジーに収められているけれど、比較的手に入れやすいのは『現代ホラー傑作選 第4集 悪夢十夜』(角川ホラー文庫、夏樹静子編)だろうか。

 もしご興味を抱いたら、散りかける桜の木の下で読むのもいいかもしれません。最後の最後でぞくっとしますよ。